top of page

材料が生み出す街並み

建物の外観を形作る「材料」の素材とその割合を調査した。

対象地域は東京駅から皇居の間のエリア(皇居外堀前日比谷通り=A立面、丸の内仲通り皇居側=B立面、丸の内仲通り東京駅側=C立面、東京駅前丸ビル・新丸ビルの並ぶ通り=D立面)である。衛星写真をもとに実際に街を歩きデータを集め、建物立面を材料の比率で再構成した。

 

どの立面もガラスが最も多く、そのモダンな雰囲気と共に、それぞれの立面ごとに機能に合わせて特徴的な素材(石、タイル、木材、レンガ、鉄など)が組み合わされていることが読み取れる。

商業施設やオフィス関連というビルの役割が、建物の外観にも関係するのではないか。また、街全体としては統一感を保ちながらも、昔の建物の一部が保存されていたり、100尺規制の名残があったりする事によって、通りごとの違いが見られると考察した。

スクリーンショット 2021-02-12 午後2.44.41.png
スクリーンショット 2021-02-12 午後2.44.12.png

(解説)

1. 目的

 丸の内には、多くの高層ビルや商業施設が建ち並んでいる。その街並みは一見整然として見えるが、一つ一つの建物に注目すると、ガラスを多く使用した高層ビルや、レンガを使用したクラシカルな建物など、どの建物も違った様相を呈している。そのような丸の内の建物を形作っている「材料」に着目すると、一つの建物であっても、ある通りに面する表側の面と反対の裏側の面では異なる材料が使用されているものが多く見受けられた。そこで「建物の建ち並ぶそれぞれの面ごとに、使用される材料に何か共通した傾向が現れているのではないか」という仮説を立て、この仮説をもとに、丸の内仲通りに面する建物の表側と反対の裏側の両面を対象に、それぞれの面にどのような種類の材料がどのくらいの割合で使用されているかを分析する。

 

2. 調査方法

 グーグルアースを使って建物の外観をキャプチャーし、その写真をもとに、実際に丸の内の街を歩き、建物の外観にどのような材料が使われているのかを調査した。そして、建物の立面写真を用いてどのような材料がどのくらいの割合で使われているかを計算し、その分析結果をもとに建物立面を材料の比率で再構成した図で表した。

 

3. 立面ごとの特徴

 各立面に使われている素材の割合を以下の表にまとめた。

 

 A立面(皇居外堀前日比谷通り)は、ガラスと石が全体の約7割を占めているが、建物ごとに着目してみると最も多く占める素材はそれぞれ異なることがわかり、多様な雰囲気が感じられる。特にレンガが約半分を占める建物がふたつ見られ、昔の建築の保存と新たな建物の建設が同時に行われ、うまく融合していることが見てとれる。

 B立面(丸の内仲通り皇居側)は、最も割合が多いのはガラスの45.2%だが、石の割合も比較的多く全体の25.2%を占めている。他の立面と比べると、タイルやレンガ、鉄など様々な素材がバランスよくつかわれていることが分かる。

 C立面(丸の内仲通り東京駅側)は、ガラスの割合が比較的多く、67.4%を占めている。ショッピング通りのため、華やかな雰囲気をもつタイルが多く使われており、唯一木材が使用されている建物も見られた。

 D立面(東京駅前丸ビル・新丸ビルの並ぶ通り)は、100尺規制より上の部分はガラスでできたオフィス部分のため、ガラスの割合が立面の中で最も多く、74.1%を占めている。100尺より下の部分は石やレンガなどの素材を使用したり、空間を作ったりすることで、オフィスビルの並ぶ通りではあるものの、アイレベルでは人々を引き込みやすいつくりになっている。

 

4. 結論

 

 建物の機能と素材が持つ特徴との間にみられる関連について、以下の内容が考えられる。例えばガラスは開放的なイメージを与えるため、ショッピングビルやオフィスビルの建ち並ぶB,C,D立面によく見られた。特にショッピング通りのB,C立面ではショーウィンドウで建物内が良く見通せ、商品を見せるようなつくりも見られたことから、人を引き寄せる効果を狙っていることが分かる。ただしガラスはオフィスビルにも窓の素材として多く用いられており、人を引き寄せる役割以外にも本来の採光としての役割も考えられる。我々が「なし」と設定した素材の使われていないピロティのような空間の部分も、ガラスと同様に開放的なイメージを持つため、重厚な素材とのコントラストとしてA~D全ての立面に効果的に使われていた。またアイレベルにだけでなく、100尺より上と下との機能を分けるために「なし(空間)」が多く用いられており、仕切りとしての効果も持つことが分かった。他にも、石の素材は行幸通りよりも南側に集中している特徴が見られた。これについては帝国劇場や東京国際フォーラムなどの文化施設とも近く、オフィスの事務的な空間よりも特別な空間であることが求められるためだと推測した。

 それぞれの立面ごとに概観すると、A立面はショッピングエリアのない純粋なオフィスビルの通りであるため、歩行者を惹きつけるための開放的な印象が必要なく、結果多様な素材が使われた建物の建並ぶ独特な通りとなっていた。B,C立面のショッピング通りには、重厚感のある石に比べて軽い素材で足を踏み入れやすい印象を与えるタイルが用いられており、また温かみのある木材が使われていたのもC立面だけであった。D立面は100尺より下がショッピングエリア、上がオフィスビルとなっている建物が多くあり、ちょうどその2つの機能を表したような素材の割合となっていた。

 以上の分析から、A立面は外濠前のオフィスビル通り、B,C立面はショッピング通り、D立面は駅前のショッピング+オフィスビル通りという、それぞれの持つ機能ごとに、使われている素材の違いが認められた。しかしあらゆる場所に昔の建物が保存されていることから、ガラスのモダンな雰囲気と“一丁倫敦”のレトロな雰囲気とが共存しており、街全体の統一感が保たれていることが分かった。

 

 

【執筆者】

1.原田秀太郎 Shutaro Harada (創造理工修士1年)

2.藤川凌 Ryo Fujikawa (創造理工修士1年)

3.大井ひかり Hikari Oi (文化構想4年)

4.橘川彩香 Ayaka Kitsukawa (文化構想4年)

5.鈴木里歩 Riho Suzuki (文化構想3年)

6.野口藍子 Aiko Noguchi(文化構想3年)

bottom of page