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「流動」と「滞留」

三菱一号館美術館前広場を対象として、広場空間にみられる人々の「流動」と「滞留」の様子を可視化した。広場空間の「寛容性」や「奥行き性」が人々を引き込み、単に歩く・立ち止まるだけでない、多様な行為を誘発していることが読み取れる。

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Map A: 流動と人数の関係

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Map B: 滞留行為と滞留時間の関係

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Map C: 滞留・流動のベクトル化

(解説)

1. はじめに
 

着想:丸の内エリアにおけるアクティビティの多様性 

 丸の内には多様な歩行系ネットワークが張り巡らされており、人々はその上を自由に移動している。特に接地階では、軸となる表通りだけでなく、そこから離れた街路や広場にまで人々がひきこまれ、賑わう様子が見られる。そうした中で、様々な属性の人が行き交い、日常・非日常の両方において、人それぞれの多様なアクティビティが許容されている。

 この背景には、近年盛んに議論されている公共空間の活用方法の模索やそれを可能とする各種規制緩和に基づく、恒常的な道路空間利活用の展開や公共空間の計画的な整備がある。

 こうした計画的な整備によってもたらされた、多様な行為を受け止める空間の「寛容性」が、丸の内の魅力を形作っているのではないかと考えた。

 

目的:流動と滞留の可視化による行為の多様性の把握

 丸の内の寛容性がもたらす人々の行為の多様性に着目し、調査を行った。具体的には、「流動」と「滞留」に焦点を当て、両者を可視化することを試みた。本調査における「流動」とは、「通行者の動き、流れる様子」であり、「滞留」とは、「立ち止まって行う行動、その場に留まる様子」である。

 流動と対流の両者に着目することで、パブリックスペースにおける多様な行為を抽出し、空間特性との関係性を分析することを通して、多様な行為を誘発する丸の内の空間的魅力について考察した。

 

2.三菱一号館広場における「流動」と「滞留」

 流動や滞留がよく観察される広場空間として、三菱一号館広場に着目し、30分間の動画撮影を行って人々の様子を観察した。調査は休日の13時に行い、天気も良かったため、地上に多くの人が集まり、賑わう様子が伺えた。

 現地調査で得られた動画データをもとに、滞留行為と流動行為を地図上にプロットし、行為の発生状況を可視化した。

 

Map A: 流動と人数の関係

 植栽の北側では、南側に比べて通り抜けが多く見られた(図1)。観察時この部分に日が当たっていたことや、道幅が広く通行しやすいことが影響していると推測される。また、観察地点手前から奥に向かう人と、奥から手前に向かう人はともに多く、自由な移動が可能で出入りしやすい空間となっていることが読み取れる。さらに、観察時は休日にもかかわらず、通り抜ける人の多くは、その服装からワーカーであると推察され、オフィス街として知られる丸の内のイメージを「人景観」が強めていることが指摘できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(図1)

Map B: 滞留行為と滞留時間の関係

 広場内には多くのベンチが設けられており、座ってご飯を食べる会社員や、周囲を眺めながら休憩している人などが見られ、その多くが比較的長時間(概ね15分以上)滞在している様子が観察された(図2)。一人で座っている人も多く、人の気配が感じられて居心地の良いこの広場が、丸の内の人々にとって都会の中の「オアシス」となっていることが窺われた。

 さらに、クリスマスのオブジェが置かれていたことや、広場内の植栽が整備されていたことから、複数人で写真撮影をする人々の様子も観察された(図3)。

 

 

 

 

(図2)                      (図3)

 

Map C: 滞留・流動のベクトル化

 調査で得られたデータから、一号館広場における滞留・流動の軌跡を、矢印によって可視化した。

 仲通りと大通りの間に位置する一号館広場は、「広場」でありながらも「通り抜ける空間」として、人々の流れを創り出していることが読み取れる。さらに、柱やベンチ、植栽などのランドスケープデザインが施されていることで、その流れは交わりながらも、一定の方向性を生み出していると考えられる。

 また、植栽周りのベンチやオブジェの存在が人々の滞留行動を誘発し、広場の質を高めていると考えられる。

 

3.まとめ

 一号館広場では、一見表通りからは判断出来ない空間の奥ゆき性が、人々を広場内部へと引き込み、「ただ通り抜ける空間」としてだけではない、人々の流動性を生み出していると考えられる。また、街路からの視認性が低く奥まっている広場形状は、利用者に内部と外部のバッファゾーンとしての空間認識を与え、人々が滞留・停留したくなるような憩いの空間を生み出していると考えられる。

 

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【参考文献】

(文献1)小嶋 一浩,小さな矢印の群れ, TOTO出版,2013/11/20

 

【図の出典】

(図1)執筆者(小野)撮影

(図2)執筆者(伊藤)撮影

(図3)執筆者(小川)撮影

(Map A)執筆者(村松)作成

(Map B)執筆者(村松)作成

(Map C)執筆者(山本)作成

 

【執筆者】

1.伊藤香梨 Kana Ito (文化構想3年)

2.畠山はる奈 Haruna Hatakeyama (文化構想3年)

3.小川真由 Mayu Ogawa (文化構想3年)

4. 小野俊介 Syunsuke Ono(創造理工4年)

5. 塚本菜月 Natsuki Tsukamoto(文化構想4年)

6. 深津怜央奈 Reona Hukatsu(文化構想4年)

7. 山本拓海 Takumi Yamamoto(創造理工修士1年)

8. 村松美邑 Miyuu Muramatsu(創造理工修士1年)

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