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絵画・写真から見る東京駅

絵画・写真作品に東京駅がどのように表れているかを調査した。東京駅に対象を絞った理由は、東京駅は丸の内のシンボルであり、様々な作品の中に登場しているからである。

 

丸の内における人の流動、地形を調査した他班とは異なり、絵画や写真といった表象物を鑑賞し、そこに見られる作者の意図や想いを考察するという文系寄り着眼点で調査を進めた。そのため定量的な調査との親和性が低く、地図作りが困難を極めた。

 

そうした中制作したこれらの4枚の地図は、それぞれサンプルとして扱った①絵画 ②プロによる写真 ③インスタグラム内の写真 が丸の内のどこで描かれたのか/撮影されたのかをプロットしたものである。(4つ目は全てをまとめたもの)

 

これらの地図を見比べると赤と緑でプロットした写真作品はあまりバラツキはないが、青でプロットした絵画作品は各方面に点在していることが分かる。また絵画作品が描かれた場所の特徴として、丸の内北口を斜めから描いたものが多いこと、行幸通りから描いているものが多いことが見て取れる。

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(解説)

1.絵画から見る丸の内の表象


 東京駅が描かれている絵画作品を年代を問わず収集しジャンル分けをした結果、大きく分けて6つに分類された。それらを考察して行く中で、6つのジャンルがそれぞれ東京駅に内包されている性質を違った視点から描き出しているということが判明した。

 

モダンな性質

 辰野金吾によって1914年に竣工した東京駅丸の内駅舎は当時としては珍しい赤煉瓦造りのルネサンス様式であった。東京駅は戦前までモダンな建築物の代表的存在であり、美人画や絵葉書に描かれることでモダンなイメージを増幅させる装置として用いられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

山川秀峰《東京駅と美人》1942 木版、紙    恩地孝四郎《東京駅》1931 木版

 鉄道開通70周年記念

 

負の遺産としての性質

 戦前まではモダンの象徴とされていた東京駅も大戦での戦災を免れることはできず、特徴的なドーム屋根の消失などの被害を受けた。そのような凄惨な様子を絵画ならではのタッチや暗い色調によって表現した絵画作品が幾つか残っている。画家たちは日本を代表する建物の壊滅的な被害を描きだすことで、一時の求心力を失った日本国の姿を描こうとしたのではないか。

 

 

 

 

 

 

 

伊藤善 1945ごろ              鈴木与太郎 《東京駅(修復中)》1946

《東京駅(爆撃後)》

      

様々な感情が生まれる場所としての性質

 駅というのは往往にして旅立ちや離別など様々なドラマが生まれる場所である。日本の玄関口でありターミナル駅でもある東京駅は、他のどの駅とも比べられないほど多くの物語を紡いできた。多くの人が旅立ち、多くの人を迎え入れてきた東京駅だからこそ生まれる感情を、絵画ならではの「目に見えないものを描く」という性質に基づいて描いた作品を取り上げた。

 

         

 

 

 

 

 

大津英敏 《旅情》       渡邊美喜《大都市心象(東京駅正面)》1993年 紙本着彩

 

交通の中枢としての性質

 東京駅はいうまでもなく交通機関の中枢機能を担っている。それは日本という広い視野のものだけではなく東京都に限ってもいうことができる。それを証明するようにタクシーやバス、都電といった駅周辺の交通機関が並列して描かれている作品が多く見受けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

櫻田精一《東京駅》1932年 油彩          諏訪兼紀《行幸道路》1931年 木版

 

ビジネスの中心地としての性質

 丸の内は日本有数のビジネス街であることから東京駅を描いた作品には通勤する人々の姿が多く描かれている。それらは単に風景として存在するだけでなく、都会の冷たさや無機質さ、働き続ける人々の孤独を描き出すために意図的に用いられていると考察した。

 

 

 

 

 

 

 

 相笠昌義 《東京駅》1993          坂本眞一《『孤高の人』9巻 原画》2010年 インク、紙

 

未来永劫存在するランドマークとしての性質

 発展した未来都市の中の東京駅、荒廃した世界における東京駅など未来においても残り続けている東京駅を想像で描いた作品がいくつか見られた。この背景には、関東大震災と大戦という二度の被災を耐え抜いた東京駅の不変性と東京のランドマークとしての価値があるのではないかと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

左:《少年帝都復興双六》林唯一 1924 『日本少年』新年大付録

右:元田久治《Indication-Tokyo Station-》2007年 リトグラフ、和紙

 

 以上のように東京駅を描いた絵画作品には様々なバリエーションがあり、それら一つ一つが東京駅の持つ多面的な性質を描き出しているということが分かった。逆説的に考えると、東京駅は多くの性質を内包しているからこそ、画家を魅了し、それぞれの持つ想いや世相を反映させることを容易にしていると考えられる。

2.写真作品から見る東京駅

 写真媒体でも、東京駅を被写体として様々な表現が見られた。そこで、東京駅を撮影した4人の写真家の作品をもとに、分析・考察を行った。さらに、写真というアート性の強いものと対比して、Instagram上に投稿されているアマチュアの写真を抽出し、それらに見られる東京駅の性質の分析と考察も加えて行った。

 

(1)プロの作品

① 佐々木直樹

東京駅だけを撮り続けている写真家。東京駅を一つの歴史ととらえ、写真を通してそ

の歴史や外観の変化を記録し続けている。タイトル不明

② Taro Otuka

 雨の日にしか見せない表情があると考えていて、カメラを地面ギリギリまで近づけて水面に反射する東京駅を撮影した。タイトル不明

③ 犬飼誠人

夜景写真家。犬飼が撮る東京駅は、オレンジ色にライトアップされた駅舎と、再開発されたビル群との新旧の調和が見られる。また、光が強く写されているという点が、夜景に重きを置く写真家ならではと言える。タイトル不明

④ 右近倫太郎

 「自分の心が見つめているものを写す」という写真観を持つ写真家。その考えの通り、『星

降る東京駅』(2014)では雪を星に見立てて表現がされている。構図を見てみると、画面中央部分に横長の東京駅を配置し、画面下半分から東京駅に続く足跡によって画面上部の雪へと視線誘導が行われている。ここでの東京駅では、ビル群が全く写っていない。

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (2)インスタグラムの写真から見る東京駅

 Instagram上で「#東京駅駅舎」と検索。トップ投稿から駅舎が移っている写真を抽出し、そこから読み取れる東京駅の性質を考察した。

① ビルとの対比

 古典的な装いの東京駅と現代的なビルを対比させることで、後述の夜景を“映え”させると考えられる。さらに、このような建物の時代対比によって、「過去から現在までを繋ぐ象徴」的な要素を読み取ることができる。

② 夜景

 プロの写真家作品と同様、Instagram上でも夜景を写す作品が非常に多いことが分かった。やはり、東京駅の柔らかいオレンジの光と、その後ろの近代的な光という二色の対比が魅力的なのであろう。丸の内全体としても、冬場にはイルミネーションが飾られるなど、「人を惹きつける明かりを持つ街」としての性質がうかがえる。夏場には駅前広場にスプリンクラーが設置され、「水面の反射」を利用した構図も多く見られた。

③ よく見られる構図

a.KITTE側から見下ろしたもの​

b.真正面を捉えたもの

 左右対称な東京駅だからこそ、時間帯に関わらず“映え”て、綺麗に撮ることができる。この構図も、東京駅の写真を撮るうえでの気軽さや、見慣れた構図故の親しみやすさがあるために多くの人が撮る構図であると考えられる。

 

 プロとアマチュアという二者の視点からの考察を通じ、光の使い方や撮影の時間帯、画角等を利用して、東京駅の多角的な性質を引き出しているという共通点があることがわかった。また、写真を気軽に撮影し、SNSにシェアできるようになったからこそ、人々がそれぞれの東京駅を手軽に撮影して表現できるようになったのではないだろうか。

 

                                     

 

 

 

 

 

 

 

 

                     

 

 

 

3.結論

 以上の調査から、東京駅は多面的な性質を持つからこそ、絵画と写真双方の特性を用いた作品が多く生み出されているということが結論づけられる。また、大正時代から現代に至るまで絵画からインスタグラムと表現媒体は変わったもののいつの時代でも表象されているのは、やはり東京駅がそれだけモニュメンタリティを有する建築物であり、人々の心を惹きつける魅力があるからだと言える。今後も時代に遡行した表現方法で、建築を含む周辺の環境の変化の更新とともに多面的な作品が作られていくだろう。

 

 

【参考文献】

(文献1)東京ステーションギャラリー編集 ,『東京駅100年の記憶』

          東京ステーションギャラリー発行 , 2014

 

【図の出典】

絵画作品は全て文献1から引用

写真作品は以下webサイトから引用

インスタグラムは#東京駅で検索し出てきたものを引用

 

【執筆者】

1. 大牟禮 佑基  OMURE, Yuki (文化構想4年)

2. 大滝 千夏   OTAKI, Chinatsu (文化構想4年)

3. 櫻井 美貴 SAKURAI, Miki (文化構想4年)

4. 山田 健太 YAMADA, Kenta (文化構想4年)

5. 丹下 裕介 TANGE, Yusuke (創造理工修士1年)

6. 前田 貴大 MAEDA, Takahiro (創造理工修士1年)

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