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パブリックアートと人々

パブリックアートと人々との相互関係についての分析と研究を行った。

 

パブリックアートと普通のアート作品の最も大きな違いは、公共性と相互性である。パブリックアートの特徴は人々との相互行為の発生を促すことであり、人々の行為もパブリックアートの都市的価値に影響を受ける。

 

今回はパブリックアートと人々との相互関係の発生率を統計することによって、それに影響を与えた要因を分析し、都市の街に最適なパブリックアートを探求する。

 

一定の時間内での、パブリックアートと相互行為を発生した人数と、パブリックアートを通過した人数の割合を算出し、相互関係の発生率とした。地図に記載されている番号は丸の内周辺のパブリックアートの位置を示しており、作品が丸の内仲通りに集中していることがわかる。

 

円環状の図はそれぞれの作品が人々との相互関係の発生率を表している。これに基づいて、人々の美的傾向をより直観的に知ることができると同時に、都市の街に最適なパブリックアート形式についてのさらなる研究を可能にする。

スクリーンショット 2021-02-12 午後5.25.45.png

(解説)

1. 背景

(1)パブリックアートの定義

 美術館やギャラリーの外で計画および制作され、特に公共空間内での展示を目的としている。また、設置される場所の結びつきを強く意識した作品である。

 また、地域社会の文化的,美的,経済的活力に多大な価値を与える。パブリックアートが地域のアイデンティティに貢献し、地域の誇りと帰属意識を育み、住民や来訪者の生活の質を高めることは、都市デザインの理念として受け入れられている。

(2) オブジェクトの形や色が人々に与える影響

[形]の与えるイメージ

◯は温かみ、柔らかさ、円満。□は安定感、決定的、主張性、無変化。△は安定感、前進、斬新的。☆は明るい、眩しい、喜び、子供っぽい、楕円は喜び、面白い、不安定、可愛い。

[色] の与えるイメージ

「黒」は不安、神秘感、絶望、厳か。「赤」は明るい、激しい、情熱、行動力、革命。「オレンジ」は暖かい、行動力、親切。「黄色」は希望、幸福、ユーモア、誇張、危険、不安。「青」は誠実、冷静、理性、安定、神秘、冷たい。「緑」は安全、協調性、自然、平和、癒し、生命力。「ピンク」は女性、ロマンティック、誘惑、優しい、「ブラウン」は伝統、穏やか、混沌、保守的、頑固。

先行研究の知見:

パブリックアートと人々との関係性は比較的に密接であり、公共性および人々との相互関係はパブリックアートにおける最も大事なポイントの一つである。

2. 調査目的と方法

(1) 調査目的

 パブリックアートと人々との相互関係について調査することによって、パブリックアートにおける人々の好みを知り、パブリックアートの利用率を高める方法を探る。

(2) 調査方法・流れ

 一定の時間帯で作品と相互行為が見られた人数とその時間帯で作品を通過した人数をそれぞれ記録して比較する

ア、一回目(2020年11月11日、全員で昼と夜1~15の調査をした)

イ、二回目(2020年12月12日、陳子昂とWANG Shuqiが4~8,14、15の調査をした)

ウ、三回目(2020年12月18日、岡部萌亜が1~3の調査をした)

エ、四回目(2020年12月19日、川崎知香と関戸梨央が9~13の調査をした)

 二回目から四回目にかけて金曜日と土曜日の午後17:00〜19:00の時間帯に調査を行う理由は、通行人数が比較的に多く、また、他の通勤時間帯と比べて余裕のある人が多いと想定したためである。

 

3.フィールドワーク

(1) 初歩研究(作品について分析)

ア.作品の位置、紹介(丸の内ストリートギャラリー公式サイトを参考)

 

 

 

 

 

 

 

(上から順に)図1、図2

 1. 加藤 泉《無題》2018年制作(本小松石・着彩) 2. 草間 彌生《われは南瓜》2013年制作(黒御影石) 3. 鹿田 淳史《コズミック・アーチ '89》1989年制作(ブロンズプレート)4. 桑田 卓郎《つくしんぼう》2018年制作(磁土・釉薬・顔料・金) 5. 木戸 修《SPIRAL.UQ》2017年制作(ステンレス) 6. 三沢 厚彦《Bird 2014-03B》2018年制作(ブロンズ・着彩) 7. 三沢 厚彦《Animal 2016-01B》2018年制作(ブロンズ・着彩) 8. 金氏 徹平《Hard Boiled Daydream (Sculpture/Spook) #1》2018年制作(ステンレス・塩化ビニル系樹脂・塗料) 9. 國府 理《the Garden(屋根裏の庭)》2011年制作(鉄、土、植物、植物の種子、その他) 10. 長谷 京治《風の椅子》1995年制作(ブロンズ)11. 水井 康雄《石のとびら》1969年制作(ブルゴーニュ産 石灰岩) 12. 淀井 敏夫《ローマの公園》1976年制作(ブロンズ)13. 三沢 厚彦《Animal 2017-01-B2》2017年-2019年制作(ブロンズ・着彩)14.安田侃《天空》2006年制作(カッラーラ産大理石) 15.《リーチ・マイケルのベンチアート》2019年-2020年制作(銅)

 (1~13については丸の内ストリートギャラリー公式サイトにある番号に準ずる)

 イ.作品分類

 無機体:3、5、8、10、11、14

 有機体:1、2、4,6、7、9、12、13、15

(有機体:有機物からなる組織体。生物のこと)

 

ウ、アクセシビリティ

 間隔、視線、向きは相互行為の発生を促す。

[間隔]歩行および鑑賞に適する距離である。

[視線]人間の視線範囲は約120度で、これらのパブリックアート作品は両側の歩道に集中している。また、間隔が狭く、遮るようなものもないため、道路のどこからでも作品を見ることができる。 例えば、

6番の作品:

正面が歩道に向かっているのではなく、少し斜めを向いているのは、道に入ってからすぐその正面が見られるようにするためである。また、6番の作品が位置する歩道はやや狭いため、斜めを向くことによって、圧迫感を抑制できると考えられる。

8番の作品:

見る角度によって、違う立体感を体験することができる。

[向き]1~12、14、15は人々が通る歩道側を向いている

 13は人々の往来が多い東京駅の方向を向いている

    →丸の内を行き交う人々の目により触れるように意識されている

 これらの作品は独特な形、色、および材質の組み合わせによってデザインされている。また、このような線形のレイアウトと適切な徒歩距離は効果的な空間環境を形成し、相互行為の発生を促す効果が見られる。

 

詳細研究(相互関係についての分析)

ア、相互行為の分類  

・ 顕性相互行為(身体を使った相互行為。例えば、触れる、写真を撮るなど。)

・ 潜性相互行為(思想と関わる相互行為。例えば、作品を観察するまたはキャプションを見ることから、

  考えるまたは作品について話し合うという行為に移る。)

イ、相互関係の発生率の分析

・ 発生率= 一定の時間帯で作品と相互行為が見られた人数 / その時間帯で作品を通過した人数 x 100%

 

表1 パブリックアートと人々との相互関係の発生率

(1~13については丸の内ストリートギャラリー公式サイトにある番号に準ずる)

1有機体:独特な存在感があり、作品を垣間見る、またはじっくり観察する、作品の写真を撮る、作品に触れる、キャプションを読むなど、様々な相互行為が見られた。

2有機体:背景に上手く溶け込んでおり、作品を垣間見ると見るという相互行為が多く見られた。

3有機体:作品を垣間見るという相互行為が多く見られた。

4無機体:作品を垣間見る、またはじっくり観察する、作品の写真を撮る、作品に触れる、キャプションを読むなど様々な相互行為が見られた。

5無機体:作品を垣間見る、またはじっくり観察する、作品と記念写真を撮る、作品に触れる、キャプションを読むなど様々な相互行為が見られた。

6有機体:作品を垣間見る、またはじっくり観察する、作品と記念写真を撮る、作品の写真を撮る、キャプションを読むなど様々な相互行為が見られた。

7有機体:作品を垣間見る、またはじっくり観察する、作品と記念写真を撮る、作品の写真を撮る、作品に触れる、作品について話し合う、キャプションを読むなど様々な相互行為が見られた。

8無機体:作品を垣間見る、またはじっくり観察する、作品の写真を撮る、作品について話し合う、キャプションを読むなど様々な相互行為が見られた。

9有機体:作品を垣間見る、またはじっくり観察する、作品と記念写真を撮る、作品の写真を撮る、キャプションを読むなど様々な相互行為が見られた。

10有機体:作品を垣間見る、またはじっくり観察する、キャプションを読むなど様々な相互行為が見られた。

11無機体:素材が石灰岩であり、比較的シンプルな作品である影響もあり、周囲に溶け込んでいた。

12有機体:作品を垣間見る、またはじっくり観察する、キャプションを読むなど様々な相互行為が見られた。中通りの端に位置しており、通行人が少ないゆえに存在感が感じられた。

13有機体:作品を垣間見る、またはじっくり観察する、作品と記念写真を撮る、作品の写真を撮る、キャプションを読むなど様々な相互行為が見られた。

14無機体:ショーウィンドウの中にあるクリスマスツリーに目を引かれた子供たちに特に人気だった。記録時には子供が石に触れる場面が見られた。

15有機体:作品を垣間見る、またはじっくり観察する、作品と記念写真を撮る、作品の写真を撮る、作品と一体になっているベンチに座る、作品について話し合う、キャプションを読むなど様々な相互行為が見られた。ベンチに夫婦が座っていたが、それも通行人の目を引く理由の一つだと考える。

 

4.結論

 無機体と分類したパブリックアートとの相互関係平均発生率は14.7%で、相互行為に至る率は低かった(どういう作品なのか考えたり、話したり、キャップションを読んで理解する)。有機体と分類したパブリックアートの相互関係平均発生率は26.7%で、多くの相互行為が見られた(先に写真を撮ったり、近くで作品を観察したり、触れる)。無機体の作品に比べ、有機体の作品の相互関係平均発生率が高い要因としては、有機体の作品が具体的であり、鑑賞者である「人間」にとってより身近な「生」を感じる存在であることが挙げられる。無機体の作品は、作品の不明確性により、好奇心が沸くことが考えられる。                  

 パブリックアートは人々と密接な関係があり、相互関係はパブリックアートを評価するための最も大事なポイントの一つである。以上の研究から、有機体の相互関係発生率は無機体の発生率よりやや高いが、両方とも相互行為が発生し、それぞれに異なる明確な傾向が見られた。前者は表面的で、生理的な相互行為がメインになるが、後者は内面的で、心理的な相互行為が多く見られた。パブリックアート作品を設置する際には、作品と人々との相互関係発生率を考慮することで効果的な設置が実現できると考える。

【参考ウェブサイト】

(1)美術手帖 「パブリック・アート」https://bijutsutecho.com/artwiki/57(最終閲覧2020年12月20日)

(2)The Amherst Public Art Commission and the National Assembly of State Arts Agencies「10 Great Reasons to Support Public Art」https://amherstma.gov/DocumentCenter/View/34719/Article-26--10-Great-Reasons-to-Support-Public-Art---Broudy?bidId=(最終閲覧2020年12月20日)

(3)草間彌生が語る、初の石彫作品「われは南瓜」https://www.youtube.com/watch?v=PA709Ca2oSU(最終閲覧2020年12月20日)

(4)MARUNOUCHI STREET GALLERY MAP

https://www.marunouchi.com/lp/street_gallery/(最終閲覧2020年12月20日)

(5)松山智一が語るJR新宿駅の巨大パブリック・アート「僕はアートを機能させたい」

https://bijutsutecho.com/magazine/interview/22384(最終閲覧2020年12月20日)

(6)パブリック・アートの下で – 六本木ヒルズ 《ママン》https://www.tokyoartbeat.com/tablog/entries.ja/2018/10/under-publicart-roppongihills-maman.html(最終閲覧2020年12月20日)

(7)コトバンク:有機体https://kotobank.jp/word/%E6%9C%89%E6%A9%9F%E4%BD%93-650487(最終閲覧2020年12月21日)

 

【参考論文】

曾舒怀、「城市设计中视线分析的控制方法与应用研究」、南方建筑,建筑论坛,2009.1

 

【図の出典】

(図1)および(図2) WANG, Shuqi 作成

その他は執筆者撮影

 

【執筆者】

1.オウ・ショキ  WANG, Shuqi (創造理工修士1年)

2.陳 子昂   CHEN, Ziang(文化構想4年)

3.川崎 知香 KAWASAKI, Chika(文化構想4年)

4.岡部 萌亜 OKABE, Moa(文化構想3年)

5.林 そ潤 LIM, Soyoon(文化構想3年)

6.関戸 莉央 SEKIDO, Rio(文化構想3年)

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